STIGA NEWS
スウェーデンの21年ぶりの欧州制覇。
彼らはひとりの日本人を忘れていないはずだ
2023年09月27日
●● 1959 年にOGI が空港に降り立ち、
スウェーデン卓球の歴史は始まった
激闘の末に、トゥルルス・モーレゴードがティモ・ボルを破り、ヨーロッパ選手権(団体)が終わった。男子の優勝カップを高く掲げたのはスウェーデン、21年ぶりの優勝だ。会場は地元スウェーデンのマルメ。決勝でドイツを3-1で破ったが、4000人の大観衆が彼らの背中を強く押したのは言うまでもない。
スウェーデン(優勝14回)とドイツ(優勝9回)は、ヨーロッパ選手権の男子チームタイトル41回のうち合計23回を獲得しているが、決勝戦で両者が対戦するのは6回目である。今回の勝利でスウェーデンはドイツに対して(決勝)5勝1敗として、15回目の優勝を飾った。
スウェーデンのエースは若き21歳のトゥルルス・モーレゴード
ヨルゲン・パーソンは勝利後、こうコメントした。「ヨーロッパ選手権で金メダルを獲得するという目標を掲げて、自分たちにプレッシャーをかけてきた。今はチームとしてオリンピックの準備もできている。これは残りのシーズンの計画に大きな影響を与えるだろう」。今回のヨーロッパ選手権優勝で、スウェーデンは来年のパリ五輪の団体戦の出場資格を得たことを意味している。
そして相手のドイツをこう評している。「ティモ・ボルのチームへの献身を称えたい。トゥルルス・モーレゴードが彼を倒すことができたのは、ティモがトゥルルスのスピードのあるゲームに対処できずに、トゥルルスが試合の主導権を奪ったからだね」
スウェーデンの南の町、マルメの会場は満員となった
今回の優勝よりも前にスウェーデンが最後に男子チームのタイトルを獲得したのは2002年。当時、11歳のクリスチャン・カールソンとマティアス・ファルクはおそらく試合を見ていただろう。一方、今回ボルを破ったモーレゴードはまだ生後6週間だった。
ティモ・ボルは決勝を振り返り、「素晴らしい決勝だったと思う。トゥルルスは独創的で、挑戦的で、多彩なサービスを持っており、プレッシャーをかけてきた」と語った。
16回の優勝を誇るスウェーデンだが、初優勝は1962年までさかのぼる。実は欧州の王座に返り咲いたスウェーデンの卓球関係者は今でも日本への感謝を忘れていない。それは1959年冬にひとりの日本人がストックホルムの空港を降り立った時から始まった。その男とは1954年、56年で二度、世界の頂点に立った荻村伊智朗、「OGI(オギ)」だった。
●●OGIの招聘に動いた
スティグ・イエルムクイストが「スティガ」の創設者だった
「スティガ」の創業者スティグ・イエルムクイスト
荻村はスウェーデン卓球協会がコーチとして招聘したと言われているが、実は実際に動き、金銭的なサポートをしたのはスティグ・イエルムクイストだった。彼は卓球協会の理事を務め、1944年にスティガ社を立ち上げた創設者だった。
世界チャンピオンであり、英語の堪能な日本人をコーチとして招き、スウェーデン卓球のレベルを一気に上げようとした。スウェーデン卓球の歴史はここから始まったと言っても過言ではない。荻村は日本選手がそうしたように、準備体操、トレーニング、練習での分習法(ある部分を切り取った練習法)、システム練習を行ったが、当時、ゲーム練習しかしなかったスウェーデン選手たちは一見、非合理な日本式練習を行うOGIの練習会をボイコットした。唯一参加したのは、不器用な一人の少年、ハンス・アルセアだった。アルセアがその後、国内でも成績を上げ始めると選手たちがOGIの練習に集まってきた。アルセアはのちに1962年にヨーロッパチャンピオンとなり、1967年にはダブルスで世界チャンピオンになっている。
3人の欧州・世界チャンピオン。右からハンス・アルセア、シェル・ヨハンソン、ステラン・ベンクソン
荻村はのちにこう書き記している。「コーチとして着任したが、実は選手として練習もしていた。50回ほどトーナメントに出て全部優勝した。当時の私には数カ国からコーチの招請があったが、もっとも純粋に熱意を持って声をかけてくれたのがスウェーデンだった。ヨーロッパ遠征には二度行っており、スウェーデン人の勤勉で我慢強く、一方で創造的な自由な気質は卓球に向いていた。それに人と人の間に上下関係がなく、対等な関係を持つ彼らの気質も気に入っていた」(『スウェーデン卓球 最強の秘密』より)。
アルセアとシェル・ヨハンソン(1964年ヨーロッパチャンピオン、1967、73年世界ダブルスチャンピオン)がスウェーデン卓球の栄光を築いていく。当時、ヨーロッパを席巻したスウェーデン卓球は「ヨーロッパの中の『日本卓球』」と言われた。
その後、ステラン・ベンクソンがアルセアとヨハンソンの栄光を引き継ぎ、1971年世界選手権名古屋大会でシングルス優勝を果たす。
それをテレビで見ていた少年たちがいた。ヤンオベ・ワルドナー、ヨルゲン・パーソンだった。彼らは1989年と1991年に世界チャンピオンになっている。全盛の中国卓球を創造的で、オールラウンドな卓球で撃破し、世界を席巻した。そして今、「ファンタジスタ」と呼ばれるモーレゴードがその創造性のDNAを継承し、欧州制覇に大きく貢献した。
21年ぶりの優勝は観客を熱狂させた
現代のファンタジスタ、モーレゴード
スウェーデンのナショナルブランド、「スティガ」はスウェーデン卓球の隆盛を夢見たスティグ・イエルムクイストの夢を叶えるために長年、代表チームをサポートをしてきた。
4000人の大観衆の中で「スティガ」は輝いた。彼らは、そしてスウェーデンの卓球界の人は、未だに歴史を作ってくれたひとりの日本人の貢献を忘れてはいない。
<記事=卓球王国 写真=ETTU>